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お知らせ
Takenobu論文の撤回を要望し、論文修正処置となった経緯についての説明文書
※本原稿は、Nicotine&Tob Res誌に掲載されたコメンタリー論文Tabuchi T, Takenobu K, Katanoda K. Statement of continued commitment to the issue of tobacco industry money. Nicotine Tob Res, 2024 doi: 10.1093/ntr/ntae221.の和訳に最新の状況を加筆したものである。
2024年10月22日
日本でのタバコ産業からの研究資金の問題に真剣に向き合っていきます
- 田淵貴大1
- 武信弘一郎2
- 片野田耕太3
所属
- 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
- 国家公務員共済組合連合会虎の門病院
- 国立がんセンターがん対策研究所データサイエンス研究部
2024年6月27日、Braznellらはタバコ会社フィリップモリス社の内部文書の解析から、木村廣道氏(東京大学)および川上浩司氏(京都大学)がタバコ産業から研究資金を受け取りながら、それを隠していたことを報告した。1
この論文で、臨床試験等をマネージメントするシミックホールディングス株式会社(CMIC)を経由したタバコ産業からの資金が2017年から2019年にかけて川上浩司氏に渡っていたことが判明した。川上浩司氏にはタバコ産業との間にCOIがあったにも関わらず、これまでの川上氏の論文には迂回先のCMICのみ記載され、タバコ産業の関与は記載されていなかった。
川上浩司氏が共著者を務めた論文のなかの一つに、本Letterの著者3名(田淵貴大, 武信弘一郎, 片野田耕太)を含むTakenobu, Yoshida, Katanoda,
Kawakami,
Tabuchiの5名の著者による論文がある。JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet
Survey)研究として、職場の禁煙規制の状況と受動喫煙曝露の関連を調べた研究である(以下、Takenobu論文)。2 論文掲載先はタバコ産業からの資金提供のある研究を受け付けていないBMJ
Open誌であった。3
本Letterの著者3名は、Takenobu論文の発表時、タバコ産業からの資金提供について全く知らず、また、知りえる立場ではなかった。
我々3名は、このBraznellらの論文によりタバコ産業からの資金提供の事実を知り、即座に川上浩司氏と吉田都美氏に連絡を取り、オンラインミーティングにて事実確認を行った。川上浩司氏はCMICにはフィリップモリス社からの資金提供があることを把握しており、責任著者であり川上浩司氏の教室スタッフである吉田都美氏も、川上氏にCMICを通してフィリップモリス社からの資金提供があることを知っていた。
さらに今回、事実確認を進める中で、川上浩司氏が2016-2018年度に日本たばこ産業(JT)が運営する喫煙科学研究財団の助成金を受領していたことも判明した。しかしながら、Takenobu論文において、彼らはそのことを他の著者(我々3名)に伝えていなかった。川上浩司氏は、JACSIS研究のメンバーではなかったが、第一著者が学生であったことから指導者として論文全体のレビューを行う役割で、責任著者の吉田都美氏の判断で投稿直前に著者に追加された。Takenobu論文における川上浩司氏のCOIの記述については、他の論文とも共通の記述を、吉田都美氏が第一著者に送ったが、この時、CIMICの研究資金がフィリップモリス社からのものであること、川上浩司氏が他のたばこ産業からも研究資金を受領していたことについては何の言及もなかった。なお、川上浩司氏および吉田都美氏以外の著者である我々3名は、タバコ産業および関連団体から研究資金を受けたことは一切ない。
職場の禁煙規制の状況と受動喫煙暴露の関連を調べたTakenobu論文の内容は、川上浩司氏らが関与したタバコ産業からの資金による研究とは無関係である。しかし、Braznellらの論文をきっかけとして事実確認をしたところ、前述の通り、共著者二人にタバコ会社からの研究資金についてのCOIの申告漏れがあることが判明した。BMJ
Open誌の投稿規定3の記載は「BMJ Open will not consider for
publication papers reporting work funded
wholly or partly by the
tobacco industry. This journal also excludes work where the authors have personal financial
ties with the tobacco
industry. This applies to all content types.」である。BMJ journalグループの投稿規定4には「All BMJ
journals
publish content which is free
from financial ties to the tobacco industry. The principle of excluding content funded by
the tobacco industry applies
to all content. This is to avoid our journals being used in the service of industry to
downplay the harms of tobacco and
related products such as vapes.」と記載されており、BMJ journalグループのTobacco industry funding
policyには「Personal financial interests:
When uploading their content for consideration, submitting authors are also asked whether
one or more authors had/has
financial interests with tobacco companies or tobacco-related subsidiary companies or
organisations…」との記載もある。これらの規定は、タバコ産業からの迂回資金についてどのように取り扱うべきかを明記しているわけではない。しかし、タバコ産業はこれまで様々な形態の迂回資金を駆使するなどして学術界に介入し、ステルス研究により学術を歪め続けてきたことは明らかである。4
5そのため、学術界はタバコ産業から研究資金を受け取るべきではないと世界医師会でも宣言され、6 BMJグループだけでなく、American
Thoracic
Societyの雑誌、7PLoS Medicine誌、8 日本の公衆衛生雑誌、9 Journal of
Epidemiology誌10も含む多くの雑誌、ハーバード大学公衆衛生大学院11などではタバコ産業からの研究資金を禁止している。これらの歴史を踏まえて、我々3名は、Takenobu論文のCOI申告漏れが、BMJ
Open誌の投稿規定と雑誌方針に沿うものではなかったと考え、2024年8月5日に本原稿の投稿と同時にBMJ
Open誌の編集長にTakenobu論文の撤回を申し出た。なお、5名の著者全員が論文撤回について同意している。
その後、BMJオープンから撤回ではなく訂正で対応するとの回答を得て、利益相反に関する記載を修正した12。Takenobu論文の投稿時の投稿規定では、タバコ産業からの資金提供を受けた研究を除外することが規定されており、Takenobu論文の研究はタバコ産業からの資金提供とは無関係だったからである。先に引用したBMJグループの投稿規定では、2024年5月30日にタバコ産業との個人的なつながりに関する規定が追加されている13。
日本において、かつてからタバコ産業からの資金としてJTからの助成で運営されている喫煙科学研究財団の研究費を多くの研究者が受け取っている問題がある14。最近でも、日本中の多くの研究者がこのタバコ産業からの研究助成金を受け取っている15。今回のケースでは、タバコ産業からの研究資金が継続的に提供されていることと、その資金に対する自己申告に基づくCOI管理に限界があることが改めて露呈したと言える16。
田淵貴大と片野田耕太は、これまでタバコ研究に長く携わる中で、十分にタバコ産業からの資金提供の問題を理解し、これまでもタバコ産業からの資金を受領していない。片野田耕太は前述のJournal of Epidemiology誌の声明10の著者でもある。我々はこれまでと同様にこれからも日本でのタバコ産業からの資金提供の問題に真剣に向き合っていく。タバコ会社からの研究資金に対しては慎重な対応が求められる。今回の出来事がタバコ産業からの資金提供に対して寛容な日本の現状を変えるための良い契機となることを期待する。我々はしっかりと説明責任を果たし、今後さらに気を引き締めてタバコ対策の推進に努めていく所存である。
引用文献
- Braznell S, Laurence L, Fitzpatrick I, et al. "Keep it a secret": leaked documents suggest Philip Morris International, and its Japanese affiliate, continue to exploit science for profit. Nicotine Tob Res 2024 doi: 10.1093/ntr/ntae101
- Takenobu K, Yoshida S, Katanoda K, et al. Impact of workplace smoke-free policy on secondhand smoke exposure from cigarettes and exposure to secondhand heated tobacco product aerosol during COVID-19 pandemic in Japan: the JACSIS 2020 study. BMJ Open 2022;12(3):e056891. doi: 10.1136/bmjopen-2021-056891
- BMJ Open. Author instruction https://bmjopen.bmj.com/pages/ authors. Accessed July 25, 2024.
- BMJ. BMJ group’s author instruction: Forms, policies, and ethics https://www.bmj.com/about-bmj/resources-authors/forms-policies-and-checklists. accessed July 25, 2024.
- BMJ. Tobacco Industry Funding Policy. https://authors.bmj.com/policies/tobacco-policy/?highlight=Tobacco%20industry%20 funding%20policy. Accessed July 25, 2024.
- World Medical Association. WMA Statement On Health Hazards Of Tobacco Products And Tobacco-Derived Products 1988 https://www.wma.net/policies-post/wma-statement-on-health-hazards-of-tobacco-products-and-tobacco-derived-products/ accessed 25 July 2024.
- American Thoracic Society. Author instruction
https://www.thoracic.org/about/governance/ethics-and-coi/resources/ats-tobacco-policy.pdf accessed 25 July 2024. - The PLoS Medicine Editors. A new policy on tobacco papers. PLoS Med 2010;7(2):e1000237. doi: 10.1371/journal.pmed.1000237
- 日本公衆衛生雑誌. 投稿規定 https://www.jsph.jp/files/kitei20230714.pdf accessed 25 July 2024.
- Iso H, Matsuo K, Katanoda K, et al. New Policy of the Journal of Epidemiology Regarding the Relationship With the Tobacco Industry. J Epidemiol 2018;28(1):1-2. doi: 10.2188/jea.JE20170187
- Harvard TH Chan School of Public Health. Policy on Tobacco-Related Companies 2002 https://www.hsph.harvard.edu/faculty-affairs/faculty/policy-on-tobacco-related-companies/ accessed 25 July 2024.
- BMJ Open, Correction. 2024 Oct 18;14(10):e056891corr1. doi: 10.1136/bmjopen-2021-056891corr1.
- Macdonald H, Hardy H, Rahimi K, Aldcroft A, Cook S, Hopkinson NS, Hefler M, Abbasi K. Protecting BMJ journals' content from tobacco industry influence. BMJ 2024; 385: q1169.
- Iida K, Proctor RN. 'The industry must be inconspicuous': Japan Tobacco's corruption of science and health policy via the Smoking Research Foundation. Tob Control 2018 doi: 10.1136/tobaccocontrol-2017-053971 [published Online First: 2018/02/14]
- Shiga R, Nakagawasai S, Hashimoto E, et al. An analysis of research grants allocated to researchers by the Smoking Science Research Foundation funded by Japan Tobacco Inc. in 2018: a cross-sectional study. Tobacco Prevention & Cessation 2024
- Bero LA, Glantz S, Hong MK. The limits of competing interest disclosures. Tob Control 2005;14(2):118-26.